美しい人
その人は、白いユリのようだと、思った・・・。
へちまこのそばの、ポケットパークでよく出会う スピッツを連れた美しい人。
遠目でみると、まるで白いユリの花たばを抱いているようにも見えた。
よく見ると、白い白いスピッツを抱いていた。
へちまこたちは知り合いになり、時たまポケットパークで出会うと、とりとめのない犬の話をした。
スピッツは、リリィという名だと、美しい人は静かに教えてくれた。
そのリリィが、天寿を全うして、13でこの世界からいなくなった。
美しい人は寂しそうだったが、
「リリィと過ごした日々は幸せだったから…大丈夫」
と、少し口元をきりっとして、へちまこにほほ笑んでくれた。
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しばらくしたある日、その美しい人が少し小さめの白いユリの花たばを抱いていた。
「おひさしぶり、くすっ
」
「あら、まあ、かわいい、新しい子ですね~~
」
「そうなの、わたしったら、見ちゃったら、だいちゃったら・・・クスクス」
「よろしくね、また、遊んでね、ワンダーちゃんたち」
「こちらこそ、こちらこそ、どうぞよろし・・・く・・・ん
」
「わかっちゃった、この子目が見えないの。耳もそんない聞こえてないって。それに脚も悪くてちゃんと歩けないの・・・癲癇もあるの・・・先生が長くは生きられないっていうの。でも、私、この子と暮らすことを決めたの・・・」
その美しい人は、たまたまショップでこの子を見かけ、そんな状態の子だから一時はあきらめたという。
でも、一晩二晩、三日目にはショップでこの子を抱いて、誓約書を書いてきたという。
#購入犬の身体的な欠陥について、苦情、治療費の請求をしないこと…云々。
どうして、善良な人の心を見透かすような商売をするんだろう?
「脳にも障害があって、私のこともわからないかもって、先生が・・・」
美しい人は、そんなことは気にならないといった感じで、この子は凛という名にしたと、伝えた。
「リリィは、手のかからないとてもいいこだったけど、凛はたいへん!でもね、何もできないってわけじゃないの。凛だって、トイレは覚えてくれたわ
」
美しい人は、明るくほほ笑んでくれた。
凛の黒い芭旦杏のような眼がまっすぐ見つめていた。
しばらくして、凛は、よろめきながろも歩けるようになり、ワンダーと短い時間だがかけ回れるようにもなった。
自分の名前も覚え、美しい人が呼ぶと、かけよる日もあった。
ふさふさと純白の毛をなびかせて、スピッツらしく走る凛が生命そのもののようだった。
美しい人は、それがうれしくて幸せそうだった。
凛と歩く美しい人を、公園で、街角で、その幸福そうな後ろ姿を見る数年が過ぎた。
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台風が来るという、数日前・・・美しい人は凛を抱えて歩いていた。
しばらくぶりに会った凛は、一回り小さくなっていた。
「あら、おひさしぶり。凛、歩けなくなっちゃったの。ワンダーちゃんたちは元気だった?」
凛はすっかりやせ細り、目はうつろに空を見つめているだけだった。
「これからね、先生のところに行くの。また、歩いて走ってくれると・・・」
美しい人は、そういいかけると、へちまこにうっすらほほ笑み、
「ああ、ワンダーちゃん、また凛が走れるようになったら、遊んであげて」
凛がお気に入りなワンダーが、抱かれた凛をおろしてほしいという目を向けていた。
「ごめんね、またね。遊んでね・・・ごめんね、ごめんね・・・」と、
幾度も幾度もワンダーに謝罪した。
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この美しい人には、凛の話を誰彼にして、同情を買いながら自己満足に浸るような安っぽさなどは持ち合わせない。
美しい人は、寡黙だ。
だから、美しいのだ。
凛の事実を知る者は、この界隈ではへちまこしかいない。
へちまこのように、世俗にまみれた日々を送ると、やれ消費者センターに、やれ告訴だとそっちへ話が行ってしまう。
凛を売ったという、ショップの悪口さえも、一度たりとして口にはしてなかった。
凛を抱くその手が、凛を追うその眼が・・・目の前で生きているという命に手を差し伸べられるだけ。
その犬の健全さなど、問題にしていないのだ。
この美しい人を、「そんな犬を買うから悪い」という人もいるだろう。
選べたはずなのにともいうだろう。
でも、それをしないこの美しい人を無知だとか、馬鹿だとか思う人がいたらそれこそ人としての品性がないものだと思う。
本当の品性とは、美しく陰ひなたで咲くものなのだと、この人に出会うたびに思うのだ。
そして、命と向き合う真摯さは、美しい人のほうが私よりも何倍も強いと思うのだ。
美しい人の美しさを伝えたいのだけれど、言葉が見つからない・・・。
そんな不甲斐ないへちまこは、凛の回復を心より祈ることしかできない。
今回は、本当に美しい人のお話でした。
少しずつですが、へちまこが出会った動物たちと人間の心に残る出来事(良くも悪くも)を綴っていこうと思っています。
ワンダーも願おう、凛の回復を…。
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